お里拷問

  

 

  

 ギーッと土蔵が開けられた音にはっと身体を起こした。
 責め蔵の中の牢に、着物一枚を引っ掛けて横になっていたお京は、自分が開放されるのか、再び責められるのか期待と恐怖の入り混じった気持ちで入り口を凝視した。
 「あっ、お里ちゃん」
 後ろ手に縛られたお里の縄尻を持った銀蔵を先頭に、仲間の岡っ引が二人、佐門、時枝、頭巾を被った侍が二人、総勢八人が入ってきてお京の前に立ち止まった.
 (ああ、お里ちゃん、やっぱり捕まったのね、逃げられなかったのね)
 「おいお里、お京姐さんにちがいないな」と銀蔵。
 「・・・」
 「本多様、貴殿の屋敷に忍び込んだのはこの二人ですよ」
 「うーん、こんな女にのう、それで密書はどちらが持っておるのか」
 「多分このお里だと思われますが。こいつは気をつけないと、かなりの手練の者かも」
 「ふーむ、このようにかわいらしい顔をしていてのう」
 「この目つき、この顔つきをみていますと、油断できません。アッというまに逃げられましたからのう」
 「そうです、あっしのみる目にまちがいありませんや、何をきいても答えやがらねえし、かなりしぶとそうですぜ」
 佐門と本多の会話を受けて、銀蔵がお里への尋問を開始した。
 「どうだお里、お京は先にこうしているんだぜ。こいつからお前の事をきかして貰ってな。なに最初は知らぬ存ぜぬだったのだが、ちょっと厳しく問い詰めるとすらすら話してくれたぜ」
 お里は聞こえているのだろうが、横を向いたままだった。
 「おめえも素直にならねえと、ちょっとはいやな思いもしなくちゃならねえかもな。隣の部屋にはいろんな遊び道具もあるから、そこで考えるか」
 「だめ、お里ちゃん、知ってることは正直に言うのですよ。隣の責め蔵は恐ろしい所ですよ。あなたのような若い女の身で、とても耐えられないでしょう。死ぬより辛い目にあうのですよ。どうしたのお里ちゃん、早く謝るのです。書いた物などしらなかったんでしょう、私についてきただけなんでしょう」
 「・・・・」無言のお里.
 「心配するねえ、こいつはおめえの思っているような子ウサギじゃなく、大物の牝狐かもしれねえぜ。どうなんだお里」
 「・・・・・」
 「返事がねえんなら、言えるようにしてやる、さっ、歩くんだ」
 グッとお里の帯を引いた瞬間、さきほど佐門に切られて解けそうになっていた帯がちぎれ、ダラリと垂れ下がった。巻物がほどけるように足元にとぐろを巻いて落ちたがその中に一通の書状がはさまっていた。(しまった)
 「オッこれは何だ」拾い上げた銀蔵が確かめようとするのを「おお、それは!」と本多が大声で言った。
 「見せてもらえんかな」と受け取り、すばやく広げて見た。
 「うんうんこれだ、これだ。・・・やはりこいつが」
 完全なお里の手抜かりであった。頼まれた相手に小柳橋で渡すつもりだったのだが、お京とおちあう時間が重なったのだ。少し早く着いたのがお里の命取りになったのだ。
 「やはりお主だったのか」と本多。
 「戻ってきたのならよかったですのう。それではこいつはどうします、斬ってすてられますか」
 「いやいやこれを盗むよう誰に頼まれたかきかねばならぬ。おいお里とやら、これを誰に渡すつもりだったのじゃ」
 「・・・」
 「言わぬのか」と刀に手をかけた。
 「・・・・」
 「まあまあ本多さま、拙者にお任せを。なあお里、お京も言っておっただろう、ここでは知らんふりはできんのじゃよ。教えてくれぬか」
 「お里ちゃん、早く早く話しなさい。隣へ連れて行かれたら、どうせしゃべらないと助かる道はないのですよ。身も心もぼろぼろにされますよ」
 「だめなようじゃな。おい銀蔵、連れて行け」
 はだけた着物の前から長襦袢を見せながら岡っ引三人に曳かれていくお里だった。
 「おい銀の字、このお京ってのはどうやってかわいがったんだ」
 「木馬に跨がせてやったのさ」
 「こいつもそうするか、若いだけにさぞや踊りまくってくれるだろうぜ。かなりしぶとそうだしな」
 「木馬に跨る牝の暴れ馬か、さぞやいい声でいなないてくれるだろうぜ」
 「ヒヒヒイーーンてか」
 「まあまあここにはいろんな道具が揃っているんだ。ゆっくりと楽しめるぜ」
 ハハハハハ-―――と下卑た笑いで曳いていく、
 「それでは本田様もどうぞ」
 「うむ」佐門、時枝、本多と部下の若い侍もついて行く。
 「あーーお里ちゃん・・・・あなた・・・・」

 板一枚隔てられた隣の拷問部屋で何が行われているのか。
 「キーーーー」「ヒエーーーッ」「アーーーア」という悲鳴、男達のはやすような笑い声、時々なぜか拍手までが聞こえる。
 突然「ギャアーーーアアア」とつんざくような悲鳴がおこった。お京は耳をふさぎたくなった。
 「ハウウーーギョエー・・ギャアアアアーーーー」・・・・・・「オオオオオーーー」
 あとは、悲鳴、絶叫、嗚咽、よくこれだけ出せるものだとおもわれるほどの種類の声だった。
 (あー今どこをどうされているのかしら、はやく終わってほしい・・)
 終わったかと思えば、しばらくして責め蔵を響かせるお里の最大音量のわめき声、身体から搾り出す呻き声、さぞや経験したことのない、想像を絶する苦痛と屈辱を味わっているのだろう。それらが断続的に続いて静かになった。侍達が出てきた。
 「よかった、よかった、早川殿礼を言うぞ。よく吐かしてくれた。しかし、若いだけにすごい暴れようでしたな。最後など眼をそらすほどの責め、拙者などとても我慢できませんな」
 「いやいや、この時枝に任しておけば少々強情な奴でも耐えれる奴はおりますまい」
 「しかし危いところであった。あの牝狐めが。あとはよろしく処置頼むぞ」
 「お任せを。きゃつからは少し奴等の組織のことを聞き出したいので、しばらくはこの屋敷で。じっくりと。・・・ああ銀蔵、そいつはすばしこいから、屋敷内の座敷牢に入れて見張りをつけておくようにな。」 
 「うむそれでは失礼いたす」
 岡っ引達三人に横抱きにされてお里が連れ出されてきた。
 (お里ちゃん)長襦袢姿のままではあるが汗びっしょりで身体に張り付き、顔は水でもかけられたのか髪はざんばらに解けてたれさがっていた。
 しかし何よりも驚いたのはその表情である。お京と眼があってこちらを認めている筈だが、半開きのまま焦点があっていず、何の反応も示さなかった.。
  両手もだらりと力なくゆれるに任せていた。ここでの拷問がいかに過酷で非情なものか思い知らされた。あの若い、弾ける体をもってしても、この短時間に意識を失うほどの苦痛を味わわせられるのだ。おそらく依頼者の名前も吐かざるを得なかっただろう。
 佐門達の話からは、お里はよく訓練された隠密だったのだろう。
 そういえば本多の情報も積極的に得ようとしていたし、最終的に本多家に忍び込むのを勧めたのはお里だったのかも・・・・・・。

                                            <巻ノ一 終わり>

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